2013年「目の健康講座」

平成25年度の「目の健康講座2013」が9月29日(日)午後1時~4時30分
徳島市沖浜東の「ふれあい健康館ホール」で行われました。

1 講演会

  • 「加齢黄班変性について」 徳島逓信病院 村尾 史子先生
  • 「色覚異常のバリアフリー」 徳島県眼科医会名誉会長 布村眼科医院 布村  元先生

2 アイバンク紹介

「角膜移植と親族優先提供」 徳島アイバンク副理事長 板東眼科   板東 康晴先生

3 目の健康相談会(当日先着30名様)

  • 菅井 哲也先生 すがい眼科
  • 板東 陽子先生 板東眼科
  • 牧野谷 卓宏先生 日開眼科医院
  • 水井 研治先生 渭東眼科クリニック

主催:徳島県眼科医会、日本眼科医会
共催:徳島大学眼科、徳島県医師会、徳島アイバンク、徳島市医師会、ふれあい健康館、徳島新聞社

 今年の演題は一般によく知られた病気なので参加者約190人とほぼ満席の状況でした。村尾先生には加齢黄班変性について講演していただきました。最初にアムスラーチャートを聴衆の方々に配布し見え方のチェックしてもらいました。それをもとに変視症や中心暗点について解説していただきました。加齢黄班変性は失明原因の4位であり加齢や生活習慣の欧米化が原因であること、具体的には脈絡膜から発生する新生血管が原因であることを解説していただきました。

検査法としてFAG,ICG,OCTについて、治療法としてレーザー光凝固、光線力学的療法(PDT)、抗血管新生療法(抗VEGF薬)や最新のIPS細胞による治療の可能性についても解説していただきました。

最後に早期発見、定期的な経過観察、適切な時期での治療開始の重要性を訴えました。次は布村先生に色覚異常のバリアフリーについて講演していただきました。色による障壁(バリア)をなくすことが色覚バリアフリーの意味であると解説されました。色覚異常者が実際にどんな色に見えているかを景色のスライドを提示して解りやすく解説していただきました。学校検診から色覚検査が削除されたことについての問題点、学校や家庭での色覚異常者に対しての注意点について解説していただきました。板東先生には角膜移植と親族優先提供について講演していただきました。献眼のお願いと、平成22年より自分の親族に対して角膜を優先的に提供したいという意思表示をすることが可能になったことを解説していただきました。

目の健康相談会には30人が相談をされました。当日出務していただいた先生方はもとより、徳島新聞社のスタッフの皆様の多大なご協力のもと盛大に終了しました。皆様どうもありがとうございました。徳島県民の皆様、来年もぜひご参加ください。

講演会

加齢黄斑変性について

徳島逓信病院 村尾 史子先生

加齢黄斑変性は網膜の中央にある黄斑部が加齢によって変性し、見たいところが見えにくくなる疾患である。中心が欠けて見えたり、まっすぐの線が波打って歪んで見えるようになる。 近年、加齢黄斑変性の患者は増加傾向の一途で、この9年間で約2倍に増加したといわれる。50歳以上の約1.2%に認められ、成人の中途失明原因の第4位となっている。 進行すると治療を行っても視力の回復は困難となるため早期発見、早期治療が大切である。アムスラーチャートという検査用紙を使用すれば、簡単に見え方の異常を検出することができるので時々片目ずつで自己チェックすることをお勧めする。 加齢黄斑変性のタイプ 滲出型(ウエット型)、委縮型(ドライ型)の2つがある。 滲出型は新生血管ができ、網膜に浮腫や出血を起こし急激に視力が低下 するタイプで日本人に多く、失明する人の大半はこのタイプである。

委縮型は黄斑部がゆっくり委縮していくもので視力低下もゆっくりとすすむ。 ただし時として滲出型へ移行する場合もあり注意が必要である。

なお、現在治療の対象となっているのは滲出型加齢黄斑変性のみである。 加齢黄斑変性の検査 検査には主に散瞳(瞳孔を拡げた状態)下での眼底検査、OCT(光干渉断層計)、蛍光眼底造影検査 がある。 眼底検査では出血、浮腫、萎縮巣など網膜の表面の状態がわかる。黄斑変性の前駆症状として軟性ドルーゼン、網膜色素上皮異常などの所見を認める場合、定期的な経過観察を要する。 OCT(光干渉断層計)は網膜の断層面を検査するもので網膜内層の浮腫や新生血管の状態がわかる。また、治療の効果判定にも有効である。 蛍光眼底造影検査は造影剤を肘の静脈から入れ新生血管やそこからの漏れの状態を調べる。造影剤の種類を変えることで、網膜、脈絡膜それぞれの血管異常を調べることができる。

加齢黄斑変性の治療法 主なものとしてレーザー光凝固、光線力学療法(PDT)、抗血管新生薬療法(抗VEGF薬)がある。 レーザー光凝固は新生血管を直接レーザーで凝固させる。なお、網膜組織にダメージを与えるので中心窩の新生血管には使用できない。 2006年から始まった光線力学療法(PDT)は新生血管に集積し、弱い光にも強く反応する薬剤を肘静脈から注入した後、弱いレーザーを新生血管部にあて閉塞させる治療である。健常網膜組織への影響が低いため中心窩下の新生血管も治療できる。ただし治療後5日間、体内の薬剤が排出されるまで直射日光や強い光を避けて生活する必要がある。 2008年から始まった抗血管新生薬療法は新生血管を増殖させる原因となるVEGF(血管内皮増殖因子)の働きをおさえる薬剤を眼内に注射する方法である。この治療の登場により加齢黄斑変性患者の視力を改善、維持することが可能となりつつある。感染予防のため治療の前後に抗菌剤の点眼を行う必要がある。初期の3回は毎月行い、その後は1、2か月毎に注射する方法と経過中に悪化傾向を認めたときに注射する方法がある。

さらに将来的な治療法として、皮膚から作ったiPS細胞から網膜色素上皮細胞シートを作成し網膜下に移植するという臨床研究が今年より開始する。視力改善の程度、シートの腫瘍化のリスク等の安全性の情報は明らかではないが、網膜再生治療への一歩として研究の結果が期待される。 ロービジョンケア 近年ロービジョンケアという考え方が日本でも拡がりつつある。ロービジョンとは日常生活、社会生活に何らかの支障をきたす視機能のことをさす。ロービジョンの人がより豊かで実りある生活をおくるためには、医療のみでなく、教育的、職業的、福祉的、心理的なケアを必要とする場合がある。たとえば、徳島県障害者交流プラザ視覚障害者支援センターではLED光源付きルーペ、拡大読書器、その他生活支援グッズを取りそろえ、音声図書の貸し出し、同行援護サービス、パソコン教室などさまざまなサービスを提供している。施設は障害者手帳がなくても利用可能である。そのようなロービジョンケアを上手に取り入れることも生活の質を向上させるうえで大切である。

生活上の注意点として、喫煙、高血圧、紫外線、高カロリー食などは発症率を高めると言われているので気を付ける必要がある。また、遺伝子的な要因も明らかになりつつある。一方、亜鉛や抗酸化ビタミン(ビタミンC,E,βカロチン)、ルテイン、ω―3多価不飽和脂肪酸などは積極的にとるべき栄養素とされている。サプリメントを上手にとりいれつつ、野菜中心、魚中心の食事を摂取することをお勧めする。 まとめ 加齢黄斑変性は慢性進行性の疾患である。良好な視力を維持するには、早期発見早期治療、定期検査、適切な時期での治療の継続が不可欠である。また日常生活では禁煙、野菜、魚中心の栄養バランスのとれた食事をこころがけ、外出時には紫外線からの眼を保護するためにサングラスや帽子を装用することをお勧めする。

色覚のバリアフリー

徳島県眼科医会名誉会長 布村眼科医院 布村 元 先生

色は誰にでも同じに見えているものではありません。他の人には明らかに違って見える色が、同じように見える人がいます。色を使って情報を伝えようとする時、見分けにくい配色が障壁(バリア)になる人がいます。色によるバリアをなくすことが、色覚のバリアフリーです。 色覚異常は、色が見えないものと誤解されますが、色は見えています。白黒の世界ではありませんが、見分けにくい配色があります。日本人では男の20人に1人(5%)、女の500人に1人(0.2%)います。 色覚検査は学校で行われていましたが、平成15年4月(今から10年前)、文部科学省は色覚検査を学校検診の必須項目から削除しました。理由は異常と判断される児童生徒でも大半は学校生活に支障はないという認識からです。色覚に不安を覚える児童生徒・保護者への対応として、健康相談を受けるよう指導していますが、実際に健康相談を受けることは少なくなり、色覚異常の有無を知る機会がなくなった生徒が、今年高校を卒業しました。

進学・就職さらに就業の場においてトラブルの増加が懸念されます。日本眼科医会は眼科を受診し色覚異常と診断された進学・就職を迎えた中高生に聞き取り調査をしましました。2人に1人が異常に気付かず、6人に1人が、進路の断念などのトラブルを経験していることが分かりました。 また、日本眼科医会は学校・園生活、日常生活、進学・就職、仕事上のトラブル・エピソードの実態調査もしています。トラブル・エピソードの状況で、色覚異常者ではどう見えているか、シュミレーション画像をお見せし、見分けにくい色の組み合わせを紹介していきます。 学校における色のバリアフリーでは色の見分けが困難な子どもがいるかも知れないという前提で接する。40人クラスに1人いる確率です。教職員の不用意な対応で子どもを傷つけることがあってはなりません。色覚異常を自覚していない子どもがいます。黒板では白、黄色のチョークを使い、青、緑、赤のチョークは見にくい。白、黄色のチョーク以外の色を使用する場合は、形状、輪郭線、模様、記号、文字など色以外の情報を加え、色のみに依存しないことです。

防災マップにおける色のバリアフリーは、色覚異常者、高齢者など生活弱者以外に学童などすべての人が見やすいユニバーサルデザインでなければなりません。南海トラフ大地震にそなえて新しい防災マップが作成されますが、徳島市は防災マップを色覚バリアフリーにするという意識を持った日本でも稀な自治体です。災害が起こった時に見るものでなく、避難計画を立てるための情報源として活用して下さい。

アイバンク紹介

角膜移植と親族優先提供

徳島アイバンク副理事長 板東眼科 板東 康晴 先生

角膜とは黒眼のことです。何らかの怪我や病気で角膜がひどく濁ると失明状態になります。治療は角膜移植ですが、亡くなった方から頂いた角膜を移植する手術です。アイバンクは角膜提供者の方と手術を受ける患者さんの橋渡しをします。日本、とくに徳島県では角膜を提供して下さる方が少ないため、輸入された角膜に大きく頼っています。しかし、2008年のイスタンブール宣言以後、自国内の臓器移植は自国のドナーからという考え方が一般的になりつつあります。角膜が濁る病気は、いつ誰が罹患するかもしれません。そういう災害的な病気に対する対策として、徳島県の角膜移植は徳島県内の提供者の方からの角膜でまかなえるようにしておく必要があります。2010年から親族優先提供も可能となっております。できるだけ多くの方にアイバンクに献眼登録をお願い致します。

 *掲載した写真は、徳島新聞社 様 より提供していただきました。