2023年「目の健康講座」

「緑内障のはなし」

井上 昌幸(県眼科医会理事・兼松眼科)

 目の奥で受け取った光の情報が、視神経を伝って脳に送られてものを見ている。視神経の入り口が弱ってくる病気が緑内障であり、失明原因の多くの割合を占める。

 目の中にたまっている水の圧を眼圧という。目の中は常に水が入れ替わっており、水の出入りのバランスが悪いと眼圧が高くなる。目の形を保ちクリアな視界を得るためには眼圧が欠かせないが、神経への負担が大きすぎると、視神経の入り口が徐々に疲弊する。神経の耐性は個人によって異なるので、眼圧が低くても緑内障の人も多い。神経は一度弱ってしまうと回復・再生することがない。

 健常でも年齢とともに少しずつ神経は減るが、緑内障の人は神経が減るスピードが速く、一定の量を超えて神経が足りなくなると視野が欠けてくる。しかし、少し見にくいところがあっても生活に支障がないため、初期の緑内障を自覚することはまれだ。自分で見えにくさを感じたときには、すでに進行していることが多い。見えにくくなってから後で治そうというのは無理。緑内障は早めに見つけて、生涯にわたる健康な見え方を維持するために根気よく長年の治療を続ける。それが治療の目標だ。

 緑内障もいろいろな種類がある。大多数を占める水の出口が広いタイプでは、目薬で眼圧を下げる治療を始める。多くの緑内障は年単位でのゆっくりとした進行スピードなので、目薬をいろいろ使いながら、長年にわたる治療計画を立てていく。出口が狭いタイプでは、手術やレーザー治療が有効なケースもある。

 目薬を何種類使っても悪くなるときには手術を考える。手術で水はけを良くして、目薬での治療以上に眼圧を下げることで、神経の疲弊するスピードが緩やかになることを期待する。しかし、弱った神経が元に戻るわけではないため、手術の後も緑内障の治療を続ける必要がある。

 40歳以上の約20人に1人が緑内障をもっている。年齢が上がるほど緑内障になりやすく、最初は緑内障でなくても長く通院していると緑内障が出てくることがある。加えて、日本では眼圧が高くないのに緑内障になる人がとても多く、一般の健康診断では引っかからないことがある。近年では、ごく早期の緑内障を診断できる検査機器が充実しているので、多くの人に眼科で定期的に緑内障の検診を受けていただきたい。

「どうする白内障」

鎌田 泰夫(かまだ眼科)

 目の中にはカメラのようにピントを調節するレンズの役割をする水晶体があって、厚くなったり薄くなったりしてピントを調節し、遠くや近くのものを見ている。白内障は、この水晶体が濁ってくる病気。目の病気や全身の病気や外傷が原因になることもあるが、ほとんどは加齢性のものだ。50歳代では約5割、80歳代でほとんどの人が白内障になると言われ、目の病気の中で最も多い。

 代表的な症状は、目のかすみや物が見えにくくなること。片目で見て物が二重三重に見える、光をまぶしく感じる、黄色みがかって見える、暗く見える症状もある。加齢性の白内障は徐々に進行する人が多いので、日常生活で症状を自覚していない人も多い。また視力が低下する病気は白内障だけではないので、見え方がおかしいと感じたら、自己判断せずに眼科でまず診察を受けてほしい。

 白内障と診断されたら、視力低下や目のかすみが日常生活や仕事に支障がない場合は、まず点眼薬による治療になる。初期の白内障の進行を遅らせる目的で使用する。白内障が進行して、日常生活や仕事に支障が出てくると、手術による治療を選択することになる。ただ進行しすぎると手術に時間がかかったり、目に負担がかかったりしてしまうので、その前に手術を受けた方がよい。

 白内障手術は、濁った水晶体を取り除いて、代わりに人工の水晶体の眼内レンズを入れる。眼内レンズには合わせる焦点の数によって、単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズがある。

 単焦点眼内レンズは遠くまたは近くのどちらかにピントを合わせるレンズ。遠くか手元かの1点にしかピントが合わせられないが、合わせた距離は鮮明に見える。その他の距離は、眼鏡でのピントの調整が必要になる。

 多焦点眼内レンズは1枚のレンズにいくつかのピントを合わせるレンズを入れたもので、遠く、近くにある程度ピントが合うようにできている。ある程度の眼鏡なしの日常生活ができる利点がある。ただ、レンズの構造上、明暗を区別するコントラスト感度の低下で見え方が不鮮明に感じることがあるほか、生活様式や職業や年齢によっても多焦点眼内レンズが不向きな場合がある。単焦点眼内レンズと多焦点眼内レンズは、それぞれ利点、欠点があるので、眼科医と相談していただいたらと思う。

「献眼登録の増加 急務」

山根 伸太 (徳島アイバンク理事長・山根眼科)

 アイバンクは角膜を提供する人、ドナーと角膜移植を待つ患者、レシピエントをつなぐ架け橋をするのが役目だ。ドナーとレシピエントの両方を一括して登録・管理している。

 眼球提供申込書というはがきがある。死んだら角膜を提供していいと思う人が必要事項を書いて出すと、徳島アイバンクから、眼球提供登録カードが送られてくる。カードは、亡くなって献眼するときに非常に大切なもので、必ず家族が分かりやすいところに保管をしてほしい。

 その他の献眼登録方法として、日本臓器移植ネットワークが発行している臓器提供意思表示カード、あるいは運転免許証や健康保険証の裏面に、臓器移植に関する意思表示の欄がある。

 亡くなった後、家族からの連絡で献眼が開始される。亡くなって最長でも12時間で眼球を摘出して、保存液に入れる必要があり、早急な連絡が必要だ。遺族の協力が欠かせない。

 1984年の徳島アイバンク開設以来、献眼者は94人で献眼数は164眼。うち153眼を県内で移植した。県外のアイバンクから譲り受けたものを含むと、県内での献眼者からの移植は合計173眼になる。だが、献眼者からの角膜移植数の減少は全国的な傾向だ。2019年の新型コロナウイルス感染症で、アイバンク活動が自粛するようになってからは、さらに減少が顕著となっている。

 一方で、輸入角膜による移植件数は400眼に上る。全国的な統計では15年、初めて献眼者からの角膜を輸入角膜が超える逆転現象が起こり、その傾向はさらに拡大している。しかし、いつまでも輸入角膜に頼ることはできない。

 イスタンブール宣言という宣言がある。08年の国際移植学会で採択された宣言だ。臓器売買、移植ツーリズムの禁止、自国での臓器移植の推進等を提言している。臓器移植は自国でまかなえというもので、アイバンク活動による献眼者からの角膜移植の増加が急務となっている。