2021年は新型コロナウイルス感染症の状況により、ふれあい健康館で行う予定であった「目の健康講座」は中止となりました。10月10日「目の愛護デー」に徳島新聞に掲載された目の健康講座の記事をご紹介します。
『高血圧と関連する網膜疾患』
医療法人 藤田眼科 中茎 敏明先生
日本人に身近な高血圧は、始めは自覚症状がないまま徐々に血管をむしばんでいきます。放置しておくと、やがて脳卒中や心臓病など生命を左右するような恐ろしい病気を引き起こすことは良く知られています。高血圧は、目にも悪い影響をおよぼします。目の奥には、カメラのフィルムに当たる網膜がありますが、その網膜の血管を中心に様々な病気を引き起こします。
網膜の血管は、眼底検査で確認することができます。人体の中で、直接、肉眼で血管の状態を観察できるのは網膜だけです。高血圧により網膜の血管に異常が起きれば、全身の血管にも同じような病変が起きている可能性があります。き起こすことは良く知られています。高血圧は、目にも悪い影響をおよぼします。目の奥には、カメラのフィルムに当たる網膜がありますが、その網膜の血管を中心に様々な病気を引き起こします。
~網膜から高血圧が分かる~
網膜にある動脈を観察して高血圧の状況を判断します。血圧が高いと、動脈が細くなる動脈狭細化が起こります。また、動脈に太い部分と細い部分ができる口径不同という現象も起こります。
これらの現象は高血圧による一時的な影響で、血圧を上手にコントロールすることで元に戻ります。しかし、高血圧が長く続くと血管の壁が硬くなる動脈硬化が進行します。動脈硬化を起こしてくると、動脈の中央部分が輝いて見えるようになり、さらに進むと動脈がキラキラと全周が輝くようになります。網膜血管の動脈と静脈が交叉している部位では、硬くなった動脈により静脈が圧迫され、圧迫された静脈は先細りして途切れているように見えます。
~高血圧と関連する網膜症~
高血圧を放置すると、以下のような網膜症を発症することがあります。
①高血圧網膜症
高血圧の眼底所見に加えて、網膜自体に異常が起きている状態です。網膜の血管壁から血液成分が染み出てできる出血斑や滲出斑、網膜が腫れる網膜浮腫、血流が不足して起こる軟性白斑などの所見が出てきます。血圧が非常に高い状態が続くと、網膜から脳への出口にあたる視神経乳頭という部分に浮腫が生じることもあります。治療は、降圧剤による適切な血圧のコントロールです。
②網膜静脈閉塞症
動脈硬化により網膜血管の動脈と静脈の交叉部で静脈が詰まり、行き場を失った血液があふれ出す病気です。視神経乳頭から出てくる網膜静脈の中心部で詰まると網膜全体に出血し(網膜中心静脈閉症)、静脈周辺で枝分かれした部位で詰まると部分的な出血になります(網膜静脈分枝閉塞症)。網膜出血以外に、視力に大事な役目をする網膜中心の黄斑部に浮腫が生じたり、詰まった血管付近に新しい血管(新生血管)ができたり、水晶体と網膜との間にある透明な硝子体に出血することもあります(硝子体出血)。中心静脈閉塞症の場合は、そのまま放置すると、眼圧が高くなる難治性の緑内障になることもあります。治療は状況に応じて、黄斑部の浮腫をとる注射、出血部位へのレーザー治療、硝子体出血を取り除く硝子体手術、眼圧を下げる緑内障手術などがあります。
③網膜細動脈瘤
動脈硬化がさらに進むと、もろくなった網膜血管の壁がコブ状に膨らむ網膜細動脈瘤を生じます。細動脈瘤から血液の成分が漏れると網膜に浮腫を生じます。また、そのコブが裂けると網膜の下や網膜の中、場合によっては硝子体中へ出血を起こすことがあります。治療は動脈瘤にレーザーを照射して焼き固めるか、硝子体出血を起こした場合は、硝子体手術が必要となります。
~さいごに~
高血圧は、全身のみならず目にも多くの病気を引き起こし、失明につながってしまうことがあります。高血圧を指摘されたら、まずは生活習慣を見直すことが大切です。効果がない場合には、内科専門医を受診し、降圧薬などの適切な治療を検討してもらいましょう。また、眼科専門医でも定期的に検診を行い、眼底検査で高血圧の変化や動脈硬化の評価、高血圧と関連する網膜症がないかどうかを診断してもらいましょう。一番避けたいことは、無症状なので大丈夫だろうと自己判断することです。高血圧は放置せず、必ず専門医の診断を受けるようにしましょう。
『子どもから高齢者まで 意外と知らない近視や遠視の話』
徳島県眼科医会理事・遠藤眼科 田近 智之先生
皆さんはご自分の目が近視か遠視か、また乱視があるのかどうかはご存じですか。これらは屈折異常とよばれ、必要に応じて眼鏡で矯正するものですが、日常生活に深く関わるとともに、目の病気にも関係してきます。今日はこの屈折異常についてご説明します。
眼球は黒目の表面にある角膜と瞳の中にある水晶体で目の外から入ってくる光を屈折させ、眼球の一番奥にある網膜にきれいな像を映すように働いています。人の眼球はもともと自然な状態で遠く(5m以上)にピントが合うように設計されています。この状態を正視といいます。近くにピントを合わせる時には眼球の中の筋肉の力(調節力)で水晶体を分厚くし、屈折力を増やしています。
屈折異常をごく簡単に説明しますと、自然な状態で眼球の屈折力が強すぎる状態が近視、眼球の屈折力が足りない状態が遠視です。眼球は調節力を使って屈折力を増やすことができますが、減らすことはできません。そのため近視の場合は見たいものを目に近づける必要があります。遠視の場合は自分の目の力で水晶体を分厚くさせて無意識にピントを合わせていることが多いです。眼鏡をかけるときは、近視には屈折力を減らすために中央が薄くなった凹レンズを、遠視には屈折力の不足を補うために中央が厚くなった凸レンズ使います。
乱視というのは簡単に言うと、「目の歪み」です。まん丸に見える目も精密に測定すると、縦に長かったり、横に長かったり、少々の楕円形に歪んでいることが多いのです。近視の人にも、遠視の人にも乱視は合併します。眼鏡で矯正するには歪みを補正するレンズを使います。
近視の方の目は眼球が通常よりも大きくなっていることが多く、その分眼球の中のいろいろなパーツに弱みが出やすくなります。例えば白内障や緑内障、黄斑変性症、黄斑部網脈絡膜委縮、網膜剥離など多くの目の病気の危険度が増します。年齢が上がるほどこれらのリスクも高くなり、視覚障がいの原因となることもあります。
近視の進行は遺伝と生活環境によります。小児の近視は世界的に増加しており、将来のリスクが危惧されています。海外では点眼薬やコンタクトレンズ、眼鏡による近視予防が普及してきており、徐々に有効性や安全性が確認されてきています。日本国内でも使用できるものが増えてきていますが、未だ国内で近視進行抑制治療として認可されているものはなく、保険診療で、誰もが安心して使用できるという状態ではありません。また、近視になってしまった目を回復させることはできません。近くを見るときは30cm以上の距離を開ける、明るい屋外で過ごす時間を多く取るなど、日常生活での注意点はいろいろあります。なるべく早くから近視の予防を意識し、治療など、気になることは眼科医に相談するようにしましょう。
遠視は、少々の場合は自分の目の力(調節力)を使って遠くも近くも自由に見ることができるので大変視力の良い目になります。しかし加齢とともに調節力が低下してくると疲れ易くなり、近くのみならず遠くを見るにも見辛くなってきます。疲れや視力の不安定さを感じだしたら早めに遠近両用の眼鏡を使い始め、何とか眼鏡に慣れていただくことがお薦めです。また、遠視の方は近視と反対に眼球のサイズが小型のことが多く、高齢になるにつれて閉塞隅角緑内障という緑内障のリスクが増えてくることにも注意を要します。
子供さんの遠視は、程度が強いと目の調節力で対応できなくなり、力の入りすぎで目がより目になる調節性内斜視や視力の発達が妨げられる弱視になることがあります。幼児期から治療が必要なため特に注意が必要です。
屈折異常を知ることは、より良い視力で生活の質を上げることや目の健康管理に役立ちます。是非一度ご自分の目の状態をチェックしてもらい、適切なアドバイスを受けられることをお勧めします。
献眼登録とアイバンク
徳島アイバンク理事 宮本 龍郎先生
献眼とは角膜の濁りで視力が低下した方々に眼球を提供することで、年齢制限はありません。ご協力頂ける場合アイバンクへご連絡いただければ献眼登録を行い、登録カードを送付します。アイバンク未登録でもご家族が献眼に希望される場合や「臓器提供意思表示カード」「健康保険証」「運転免許証」に眼球提供の意思を表示している場合に献眼は可能です。献眼の意思がある方が亡くなられたあとアイバンクへご連絡いただくと、担当医がお伺いし眼球を摘出します。摘出後は義眼を用い、瞼を閉じた状態でご家族のもとにおかえりになります。ご提供いただいた眼球は視力を回復した方の目となります。皆様のあたたかい善意をお待ちしています。何かありましたら徳島アイバンクへご連絡下さい。
公財)徳島アイバンク 電話 088-633-7163
〒770-8503 徳島市蔵本町3-18-15 徳島大学医学部眼科分野内